春の訪れ

#3

 「……であるからして、滝に打たれるということは私たちの想像以上に効力を発揮するわけ。そもそもその起源は……」
 「ッくしゅん!」

 春である。
全国的に卒業式ラッシュ。袴姿の女性を普段よりも多く見かけるようになり、ほんの少しだけ世界がセピア色に戻った気がする。
もう少しすると今度は入学式ラッシュだろうか。新社会人の通勤姿も見えるようになるだろう。
あぁ、春だ。春です。春だから……

 「ッくしゅん!」
 「さっきから何回目?」

 ここは私たちの大学のキャンパス内。
大学のキャンパスというところは大抵木が多く、それ故……

 「ッくしゅん!」
 「多分50回は超えてるわね」

 学年末の課題を提出し終えた私たちは、春の旅行の計画を立てることになったのである。
実に健康的だ。健全な若者である。健全でないのは目の前で平気そうに何やら喋っているやつである。

 「ぐす……まだ20回位よ……」
 「たかだか2.5倍じゃない」

 2.5倍がたかだかであってたまるか。

 「大体、外で話してるのが悪いのよ」
 「私花粉に悩まされたことないんだけれど、そんなに辛いものなの?」

 なるほど、花粉には人へ試練を与えて精神を成長させる効果があるのかもしれない。納得である。
私の前にいる金髪少女(そろそろそうも言えない年齢のはずだ)は花粉の試練をくぐり抜けていないから、未だに私を滝に打たれさせようとしているのだ。
ちなみに、彼女が私に「修行」を薦めてくるのは今年に入ってから4回目。累計では30回程である。

 「まぁ、冷美が首を縦に振るだけでここから去ることは出来るんだけどね」
 「横に振って去りますわ」
 「横車が通るのは魔女の恋だけよ?」
 「あと共産主義者の恋もね」

 どうやら彼女は私を意地でも滝に打たせようとしているらしい。
何をそんなに執着しているのだろう。滝から献金でも受けているのか。

 「この忌々しい花粉をどうにかしてくれたら、滝でも槍でも神の杖でも受けて立つわよ……」
 「花粉は人を盲目にさせるわね……」
 「なんかこう……花粉の親玉でも召喚して説教しましょうよ……それでいいわ、それで」
 「チェーンソーでも買ってみたら効くかもね」

 駄目だ、頭がぼうっとして深く物事を考えられない。会話もふわふわだ。……いや、会話は元からこんな感じだったか。

 「そういえば、最近は鼻の粘膜をレーザーで焼く治療もあるって聞いたことがあるわ」
 「うへぇ……」

 変なものを想像してしまった。映画に出てきそうなレーザー銃を向けられている私。

 「本当に辛いならそういうのも考えてみたら?」
 「検討するわ……ッくしゅん!」

 彼女も心配してくれているらしい。滝から違法献金を受けている人物と同一人物であるということが信じられない優しさである。
……もっとも本音は、万全の状態で修行に臨むため、なんて可能性が高いが。

 「はやく花粉から解放されて、旅行を楽しみましょう?」
 「……うん、勿論」

 ……あぁ。持つべきものは友人である。彼女は私のよき理解者だ。素晴らしきかな、友情。

 「……で、おすすめの滝なんだけどね―――」

 ……私が彼女の理解者になるには、まだもう少し時間がかかるかもしれないが。

FIN
 

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