流れる、年

#2
 「年越し蕎麦よ」
 「いいえ、違うわ」


 大晦日である。
私は芙鹿の家に招かれて、今年最後の瞬間を迎えようとしていた。

 最初の内はレトロゲームをして過ごしていたのだが(彼女は何故か古いテレビゲームを沢山持っていた)、
アイテム使用可能なレースゲームで私が連続20連勝を決める頃には、彼女は飽きて次の娯楽を探していた。

 「……ツイスターゲームでもやる?」
 「なにそれ。捻られるの?」

 ツイストドーナツは好きだが、自分がツイストされるのは嫌である。

 「じゃあチェスをしましょう」
 「芙鹿、それは将棋盤よ」
 「ジャパニーズチェスよ。同じだわ」

 他にすることもないので彼女に従う。
将棋盤の上に駒を並べながら時計を見やると、年明けまではあと2時間ほどだった。

 「ねぇ芙鹿、私の見間違いでなければこの桂馬、随分立体的ね」
 「まぁナイトだからね~」
 「歩兵が1人分しかないのだけれども、どうして貴方ポーンを並べているのかしら」
 「……異種格闘?」

 盤上は今や、戦国時代もかくやと言うほどの混戦具合であった。
私の歩兵は果敢にも異国の歩兵達を抑えにかかったが、敵のナイトの奇襲を受けて減少しつつある。
負けじと私も飛車を前に出すが、焦っていたからだろうか、敵のクイーンが……

 「待って。将棋にクイーンのポジションはないでしょ」
 「戦場にルールは無いわ」
 「国際法は守るべきだと思うの」

 結果は私の惨敗であった。クイーンにかき乱され、取りこぼしたポーンもプロポーションでクイーンに成ったのが敗因であろう。

 「久々に将棋で負けたわ。もっともこれは将棋なのかは疑問だけど」
 「次は手駒を用意してから臨むのね」
 「いつから将棋は事前準備で勝敗が決まるゲームになったのよ」
 「何事も備えが肝心ってことよ~」

 ……備えといえば。

 「そういえば芙鹿、年越し蕎麦用意してくれるんだって?」
 「そうそう、そろそろ出そうかなぁって思ってたんだけど。出す?」
 「食べましょうよ。具材は切ってある?」
 
 ノンノン。彼女は首を振って押入れを開ける。
中から出てきたのはジェットコースターの模型のようなものであった。
細い竹を割って組み合わせてある。まるでこれは……これは……。

 「年越し蕎麦よ」
 「いいえ、違うわ」

 それは流しそうめんセットだ。断じて蕎麦を食べるセットではない。

 「まぁたまにはこんな年越しもありじゃない?」
 「たまにでもこんな年越しは無いわよ」

 しかしどこからこんな物を持ってきたのか。
というかあるなら夏に使って欲しい。

 「こんな物どこから持ってきたのよ」
 「一昨日上河さんから貰ったの。魔法店会員一期の特典だって」

 上河さんか。納得だ。
上河さんとは、隣の街で「上河魔法店」といういかにもな名前の店を経営(?)している女性のことである。
青い猫型ロボットが生まれそうな現代にあって、魔法は流行らないと思うが。
芙鹿はその店の会員らしく、これまでにも何度か怪しげな物をもらっていた。
その内空飛ぶ箒とかももらってくるんじゃないだろうか。もしもらってきたとしても絶対に乗る気はしない。

 「で、特典がこれ?」
 「なんか魔法っぽいだろ、とか言ってた」
 「絶対不要品押し付けられてるから、それ」

 そんなことばかりしているから魔法は流行らないんだろう。
彼女がもう少し本気を出して商売を始めたら、この世界にもっと魔法が浸透すると思うのだが。

 「……まぁいいわ。せっかくだから使いましょ」
 「なら早速、麺を茹でて……」


 …………

 
 除夜の鐘が聞こえる。
外には月が見えた。麺が流れてくる。

 「冷たいなぁ」
 「年越し蕎麦だからね」
 
 眠たいからだろう、芙鹿の返事も適当になってきた。意味が通じない。

 「あ、年明けた」
 「まぁ年越し蕎麦だからでしょ」

 相変わらず返事の意味はわからないが、こうして新しい年が始まった。
今年もこうやって楽しい1年が過ごせればいいな、と。そう思った。


 後日。
例の流しそうめんセットには麺の逆流機能が備わっていることが発見された。
確かに魔法だが。
もうちょっと頑張ってもらいたいものである。




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